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「ヴァイズ」「ウィッチ」指名

エピローグ①「宝探し」




私は気がつくと、何もない空間にいた。
周りは真っ暗だったけど、なぜか怖さはなかった。


この非現実的な光景を前に、私は死んだんだ、と直感した。


「奈津…久しぶりに会えたわね。
 相変わらず、暗い顔してるんだから。」


そこには、私のお母さんがいた。
目と鼻の先ほどの距離にいたその姿は、紛れも無い実像だった。


「お母さん、私、死んじゃったみたい。
 私の人生って、何もなかった。」


私が皮肉っぽく呟くと、
お母さんは悲しそうに「馬鹿ね。」と微笑んで言った。


「何も持たずに生まれてきたからって、
 何も持たずに死ななきゃいけないわけじゃないでしょ。」


そう言うと、お母さんは私を突き飛ばして、背を向ける。
私は、衝撃で後ろに倒れてしまった。


「待って、私も連れて行って!」


そう私は声をかけるが、お母さんは振り返らなかった。


そして、ストンと、下に落ちる感覚がした。
気がつくと、私は「大広間」にいた。


「やあやあ、奈津ちゃん。
 僕の用意した「ゲーム」は楽しんでもらえたかな?」


死んだはずの男、武器商人のガレッドは、私の目の前で飄々と佇んでいた。
そして、竹下も同じように不思議そうに周りを見渡している。
精巧に出来た死体は、作り物だったということだろう。


「私たちが無様に殺しあう姿でも見たかったの?
 あんたのこと、ほんの少しは信用してたんだけどさ。」


私はイライラして爪を噛もうとしたけど、思い直してやめた。
すると、ガレッドは含み笑いをした。


「酷いじゃん…奈津ちゃん。
 もちろん、僕らは、いいパートナーだよ。
 これは、僕が君たちのために用意した、最後の舞台さ。」


ガレッドは、私の方をじっと見て、そして言った。



「ねえ、奈津ちゃん。
 死に場所を探してたんでしょ?」


私は、しばらく沈黙した。
そうだ、私は最後の記憶を思い出した。


私が、最後にガレッドに依頼したのは、「眠り姫」だった。
ただ、人を殺すためといっても、殺すつもりだったのは自分だ。


あの宗教法人の崩壊とともに、私は生きる目的を失ってしまった。
目的のない殺人をするのは、どこか気にくわない。
だからこそ、私は自ら死を選ぶことを決めたのだった。


「偶然にも、同じように目的を失った殺し屋が集まってね。
 そこで、最後に殺し屋として最高の舞台を用意したのさ。
 僕は、木屋町ちゃんが勝つと思ってたけど、予想は裏切られるものだね。」


ガレッドは、大きく息をついて、思い出したようにいう。


「そういえば、君たちの出会いも運命みたいなものだろう。」


ガレッドは、私たちに目配せをして、そして木屋町について話し出す。


木屋町ちゃんは、僕の元を最近訪れてね。
君たちのことを、とてもよく探していたんだ。


それでも木屋町ちゃんが敗北したのは、運が悪かったのか。
それとも、君たちの抱えているような使命が、
木屋町ちゃんには欠けていたからかな。


木屋町ちゃんの前の姓は「宝ヶ池」。
確か、君と同じ家系だね。


「宝ヶ池家」に生まれた人間は「宝」を持って生まれる。
「宝ヶ池家」の彼が生まれ持っていたのは、「類稀なる判断力」。


その力を生かした彼は、新興宗教団体「赤の箒」では参謀として活躍し、
「九美霧村」における臓器売買により資金獲得に尽力した。


しかし、3人の殺し屋により、「赤の箒」は崩壊することとなる。


もちろん、君たちのことだよ。
奈津ちゃんが教祖を殺し、波瑠ちゃんが構成員を殺し、
最後に歩由ちゃんが残党を殺して回った。


もちろん、互いのことは何も知らない。知る機会すらなかったからさ。
そこで目的を失った君たちは、僕に最後の依頼をした。
3人の殺し屋が僕に最後に頼んだのは、自殺のための「眠り姫」だった。


そんな中、僕は偶然木屋町ちゃんに出会い、そしてこの舞台を提案した。
彼は組織を崩壊させた殺し屋を、血眼で探し回っていたからね。
そして、君たちにとっても、彼は最後の標的だった。


君たち3人は、今回の「ゲーム」でも、
知らず知らずのうちに木屋町ちゃんを倒すのに協力していたみたいだけどさ。


それは運命というか、なんというか……
まあ、何より、今回は歩由ちゃんの勝ちだよ。


君は負け、残念だったね。


そう言って、ガレッドは手を叩いた。


木屋町は、私の標的であった。
知らず知らずのうちに、私は最後の標的を失ったのだった。


「悲しい顔をしているね、奈津ちゃん。ただ、朗報があるんだ。
 木屋町ちゃんの周辺を調査しているとき、ある事実に行き着いた。
 あの宗教法人の黒幕が、まだしっかり生きているということにね。」


「黒幕…?」

あの宗教法人は完全に潰したと思っていたが、
その裏に誰がいるというのだろう。


「それを教えるには、条件がある。
 君たち3人に、もう1つ「ゲーム」をしてもらう。
 いわゆる「協力ゲーム」というのかな。」


ガレッドは、私と貴船と竹下の方を順々に見る。


私は、大きくため息をついた。


「つまり、この「ゲーム」は茶番だったってこと?
 初めから、私たちにこれを依頼するための口実?
 なんで、私と竹下は負けたのに死んでないの?」


私はイライラしながらガレッドを責め立てるが、
ガレッドは考え込むようにいった。


「この案件は、生き残った人間にだけ渡すつもりだったんだけど…
 それが、偶然にも、入れるはずの毒薬のラベルが入れ替えられていてね。」


ガレッドは、「眠り姫」の小瓶を手に取る。


竹下がラベルを入れ替えた、あの容器である。


つまり、私たちの腕輪から注入されたのは、
「眠り姫」ではなく「テイパー」ということになる。


ガレッドは、私の方を見て悪戯げに笑う。


彼はこのフロアを、監視していたに違いない。
抜け目のないこの男が、本当にそんな単純なミスをするだろうか。


いや、そんなことを考えても、もう仕方がないのかもしれない。
全く、本当に、つかみ所のない男だ。
私は、強く、目を瞑った。


お母さんのあの言葉は、まだ耳に残っている。


何も持たずに生まれてきたからって、
何も持たずに死ななきゃならないとは限らない。


もう少しだけ、この世界で、
私にとっての「宝」を探してみようと思う。


「その案件、受けることにするわ。」


私は、そう呟く。


すると私の言葉に同調するように、貴船と竹下も続くのだった。
3人の殺し屋の復讐劇はどうなるのだろうか。


それは、また別の話で…




おわり






〜あとがきへ〜

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