「ウィッチ」こと宝ヶ池奈津は、
これから自分に起こるであろうことを察し、覚悟を決めた。
あーあ、これで、私もおしまいみたいね。
私は、大きくため息をついた。
何で、私が疑われちゃったんだろうな、そんなに怪しかったかな?
誰がやったのかは分からない。
「もう一人の私」かもしれないし、竹下と貴船のどちらかかもしれない。
いずれにしても、私を選択したってことは、推理としては失敗なんだけどさ。
最後に、暴れても仕方がない。
人生の最期くらいは、潔く死にたいと思ったから。
そういえば、思い返してみると、本当にくだらない人生だった。
宝ヶ池家の人間は、「宝」を持って生まれてくる。
それが私の家系に伝わる言葉だ。
そんな中、私は他の家族とは違い、何の「宝」もなかった。
だから、お母さん以外、誰も愛してくれなかった。
腕輪から何かの液体が流れ込んでくる。
少しずつ意識が遠くなってくる。
ゆっくりと、しかし、確実に死が近づいているのを感じる。
私と一緒に、きっと「もう一人の私」も死ぬ。
もう目覚めることはないだろう。
これから訪れる眠りは、きっと永遠に続くものであるから。
そういえば、私は、おとぎ話のお姫様に憧れていた。
王子様が迎えにきてくれて、ハッピーエンドが来るんだって信じていた。
だけど、死ぬ間際になって、やっと気づいた。
私がお姫様に憧れていたのは、周りの人間が愛してくれていたからだ。
妖精に、小人に、家族に、誰からも好かれていた。
私は、王子様からじゃなくて、
ただ、みんなから愛されたかったのかもしれない。
なんて、くだらないよね。
あんなにも忌み嫌っていた兄弟の顔が、最後に浮かぶ。
走馬灯っていうやつなのかな。
最後は毒で死ぬのって、なんかお姫様っぽいな。
そんなバカなことを思っていたら、私の視界は真っ暗になった。
ガチッ、と拘束が解ける音がした。
それがどこから聞こえたのか、私には分からなかった。
「奈津、あなた、どうしてここにいるの?」
私が好きだったお母さんの声が、聞こえた気がした。
何も持たずに生まれてきて、何も持たずに死んでいく。
それも私らしいかな、と思わず頰が緩む。
私は、「もう一人の私」と深い闇へと消えていった。
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