貴船歩由 導入
ここまでの記憶はなく、私がどうして拘束されているのかもわからない。
最後の記憶といえば、ガレッドに何かを頼みに行ったところだ。
しかし、殺す標的もいなくなったというのに、私は何を依頼したのだろうか。
何かの薬で眠らされた副作用なのか、どうにも思い出せない。
「お前たちに行ってもらうのは、「マーダーミステリーゲーム」だ。」
主催の男は、淡々とした口調でそう言った。
「マーダーミステリーゲーム」という言葉には聞き覚えがある。
確か、中国や欧米を中心に流行したトークゲームだ。
用意された殺人事件のシナリオを、
プレイヤーが推理して犯人を裁くというものだ。
触れる機会はなかったものの、誰かが夢中になっていた。
「お前たちは、私が集めた選りすぐりの殺し屋たちだ。
ある親切な男が教えてくれたんだ。」
目の前のスクリーンにある人物が映し出される。
それは、私が最後に話した人物、ガレットだ。
唯一の違和感は、彼が既に死体になっているということだろう。
体には拷問の跡もあることから、彼から情報が漏れたのだろうと察した。
口の軽い男ではあったものの、私の情報は容易に売られてしまったようだ。
やはり、最後まで掴みどころがない男だった。
主催者は、少し間を開けて、説明を続ける。
「シナリオは、まだ用意されてはいない。
今から、お前たちがシナリオを作るんだ。
90分以内に殺し合いを行い、そしてそれを推理してもらう。」
謎の声がそういうと、正面の画面に明かりがついた。
部屋には何もなく、他の人物の顔は見えない。
画面には、以下の5つの単語が並んでいた。
・「ヴァイズ」
・「ウィッチ」
・「ザクロ」
・「バブル」
・「フラット」
「フラット」は、私の「通り名」だ。
つまり、ここに表示されている他の単語は、他の人物の「通り名」だろう。
「もう既に察してはいるだろうが、
これらは、殺し合いを行う参加者の「通り名」だ。
それでは、今から詳しいルールを説明する。」
説明が終わると、「マーダーミステリーゲーム」のルールが公開された。
「殺し」の技術に関しては、自分が一番優れている。
しかし、油断は大敵だ。いつもそれを実感させられている。
私は今までと同じように、「フラット」な断面を作り出すことにしよう。
娘とずっと、記憶の中で一緒にいるために。
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