あなたの過去
ここに書いてある内容は、「ミステリーゲーム」の推理には、ほとんど影響しません。推理は、「マーダーゲーム」内の時系列と証拠品のみで完結いたしますので、自己紹介や担当するキャラがどのような人間であるか理解するためにお読みください。
ワシが殺しをしていた理由か…
まだ、お前には話してなかったかな?
それでは、少しばかり話すことにしようか。
まだ10歳の頃だったろうか。
あの時、ワシの父親は、小さなワシを京都の劇場へと連れて行った。
当時はあまり気が進まなかったが、
その公演は、人生を変えるほどの出会いとなった。
君の年齢でも、Ms.トリックのことは知っているか?
アメリカで技術を学んで帰国した、
日本の奇術師興業の第一人者の女性マジシャン。
その腕前と美貌で、日本中を虜にしたスーパースターだ。
恥ずかしながら、ワシもその魅了された人間の1人だ。
初めて彼女を劇場で見たときは興奮し、夜も寝付けなかったのを覚えている。
そう、まるで魔法のようだった。
杖を振るい、奇跡を巻き起こす姿は、とても神秘的で魅力的だった。
それこそ、自分の求めているものだと気付き、その道を志した。
ワシは夢中になって、マジックの腕を磨き続けた。
そして、Ms. トリックの片腕にまで上り詰めることができた。
ワシは、彼女のことをお師匠様と呼んで慕った。
周りはワシのことを、「奇跡の右腕」と呼んだ。
お師匠様にとってワシが重要な存在でもあり、
ワシ自身が作り出すマジックの腕を評価しての周囲の言葉だろう。
ワシとお師匠様は、2人で日本をマジックで染め上げることを誓った。
それから数10年は、とても幸せな時間だった。
しかし、ワシが40歳になった頃だろうか。
ワシらは、途方もない悪意に襲われた。
新興宗教法人の「赤の箒(ほうき)」という団体を知っているか?
信者は500人と大規模で、過激な教義を有していた。
臓器売買や殺人にまで手を染めているという噂もあった。
彼らは、ワシらのことを「神を欺く塵(ちり)」と呼び、
身体を拘束して監禁した。
ワシらのマジックのことを「神への欺き」と呼んでいた。
それからのことは、今でも覚えている。
あの時、彼らの教祖は、お師匠様の命とワシの命を天秤にかけた。
ワシが自ら命をたてば、お師匠様を助けると言ったのだ。
人間が死を間近にすれば、決断ができないことを知っていたのだろう。
事実、その時のワシは震えて選択することができず、ただただ黙っていた。
教祖と信者はそんなワシのことを見て嘲笑った。
すると、お師匠様はその教祖に飛びかかろうとしたのだ。
とはいえ、お師匠様は側近に捕まり、その場で殺された。
なんとも勇敢な最後だった。
ワシは、命は取られはしなかったものの、右腕の肘から先を切断された。
「神を欺く根源を絶つため」というのが彼らの論拠だ。
右腕とともに、今まで培った技術が全て消えていったのだ。
あの時の辛さは、どうにも言葉にできない。
ワシは解放された後、マジシャン業界を引退した。
しかし、京都の劇場で見た、お師匠様の公演がまだ脳裏に焼き付いていたのだ。
もう一度、魔法を作り上げたい。ワシはそう思った。
そこでお前に義手の製作を頼んだ。
それから、更に10年以上もの月日が必要だったが、
ワシは自分の腕のように、義手を動かすことができるようになった。
あの時の技術もほとんど取り戻すことができた。
ただ、ワシには失ったものが全て戻ったとは思えなかった。
ワシの隣に、お師匠様はいなかったから。
そこで、ワシはある決意をしたのだ。
お師匠様の命を奪った「赤の箒」に復讐しようと。
幸いにも、「赤の箒」の教祖は既に死亡しており、
後継者争いで混乱していた。
ワシはその混乱に乗じ、幹部を次々と殺害していった。
生まれて初めて、人を殺していったのである。
杖に仕込んだ刀で、一人一人確実に殺した。
その時、私は不思議な感情に襲われた。
私は、魔法にかけられたような神秘を感じたのだ。
死体はトリックで作られた偽物ではなく、私にとってはリアルな実像だった。
それから、私は構成員を殺し続け、自ら奇跡を作り出すことにした。
ワシは、捜査員から「バブル」と呼ばれた。
証拠品を一切残さないことから、泡沫のように消える犯行と考えたようだ。
皮肉なものだが、「奇跡の右腕」は健在のようだ。
しかし、ワシは目的を失ってしまった。
「赤の箒」は崩壊し、残党も殺し尽くしてしまった。
一人、幹部が生きているとは聞いてはいるものの、行方も分からない。
だから、お前に会いに来たんだ、ガレッド。
もういいだろう、これでワシの話はこれで全てだ。
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