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「バブル」指名
エピローグ③「次の舞台へ」


気づくと、ワシは京都の小さな劇場にいた。
隣には父親が、そして、舞台上にはお師匠様がいた。
ああ、死んだのだ、と直感で感じた。



「じゃあ、この勇敢な少年に協力してもらうよ。
 この中に入って、5秒数えた時、君は消えてしまう。」



ワシは、躊躇いながらも箱の中へと入る。
視界は閉ざされ、真っ暗になる。



すると、箱の外から誰かの声がする。



「実のところな、波瑠。
 別にお前のことを恨んじゃいないよ。
 私のことは忘れて、もう自由に生きておくれよ。」



悲しげな声は、明らかにお師匠様の声だ。
ワシは、嬉しくなってそれに応える。



「お師匠様…ワシも連れてってください。
 あれから、腕も上がったんですよ。」



すると、お師匠様は、ふふっと笑った。



「あの世でマジックを広めるのは、私の役目だ。
 あんたは、自分のやるべき場所で、やるべきことをやりなさい。」



お師匠様は、カウントダウンを始める。



「5…4…3…2…1…」



ゼロ、という声がした時、
ストン、とワシは下に落ちていった。



そして、ワシは目を覚ました。



「やあやあ、波瑠ちゃん。
 僕の用意した「ゲーム」は楽しんでもらえたかな?」



死んだはずの男、武器商人のガレッドは、ワシの目の前で飄々と佇んでいた。
そして、宝ヶ池も同じように、不思議そうに周りを見渡している。



ワシは、あの大広間にいた。
精巧に出来た死体は、作り物だったということだろう。



「ワシらが無様に殺しあう姿でも見たかったのか?
 お前のこと、信頼にたる人物だと思ってはいたのだがな。」



ワシは、不満げに声を漏らす。



「酷いじゃん…波瑠ちゃん。
 もちろん、僕らは、いいパートナーだよ。
 これは、僕が君たちのために用意した、最後の舞台さ。」



ガレッドは、ワシの方をじっと見て、そして言った。



「ねえ、波瑠ちゃん。
 死に場所を探してたんでしょ?」



ワシは、しばらく沈黙した。
そうだ、ワシは最後の記憶を思い出した。



最後に、ワシがガレッドに依頼したのは、毒薬の「眠り姫」だった。
ただ、他人を殺すためではない、自ら命を絶つためだ。



宗教法人の崩壊とともに、ワシは生きる目的を失ってしまった。
目的のない殺人をするのは、信条に合わない。
だからこそ、ワシは自ら死を選ぶことを決めたのだった。



「偶然にも、同じように目的を失った殺し屋が集まってね。
 そこで、最後に殺し屋として最高の舞台を用意したのさ。
 僕は、木屋町ちゃんが勝つと思ってたけど、予想は裏切られるものだね。」



ガレッドは、大きく息をついて、思い出したようにいう。



「そういえば、君たちの出会いも運命みたいなものだろう。」



ガレッドは、宝ヶ池と貴船の方を見て、木屋町について話し出す。



木屋町ちゃんは、僕の元を最近訪れてね。
君たちのことを、とても探していたんだ。



木屋町ちゃんの前の姓は「宝ヶ池」。
確か、そこにいる奈津ちゃんと同じ家系だね。



「宝ヶ池家」に生まれた人間は「宝」を持って生まれる。
「宝ヶ池家」の彼が生まれ持っていたのは、「類稀なる判断力」。



その力を生かした彼は、新興宗教団体「赤の箒」では参謀として活躍し、
「九美霧村」における臓器売買により資金獲得に尽力した。



しかし、3人の殺し屋により、「赤の箒」は崩壊することとなる。



もちろん、君たちのことだよ。



奈津ちゃんが教祖を殺し、波瑠ちゃんが構成員を殺し、
最後に歩由ちゃんが残党を殺して回った。



もちろん、互いのことは何も知らない。知る機会すらなかったからさ。



そこで君たちは、僕に最後の依頼をした。
3人の殺し屋が僕に最後に頼んだのは、自殺のための「眠り姫」だった。



そんな中、僕は木屋町ちゃんに出会い、この舞台を提案した。
彼は組織を崩壊させた殺し屋を、血眼で探し回っていたからね。
そして、君たちにとっても、彼は最後の標的だった。



君たち3人は、今回の「ゲーム」でも、
知らず知らずのうちに協力していたみたいだけどさ。
それは運命というか、なんというか…



まあ、何より、今回は歩由ちゃんの勝ちだよ。
君は負け、残念だったね。



木屋町は、ワシの標的であった。
知らず知らずのうちに、最後の標的を失ったのだった。



「悲しい顔をしているね、波瑠ちゃん。ただ、朗報があるんだよ。
 木屋町の周辺を調査しているとき、ある事実に行き着いたんだ。
 あの宗教法人の黒幕が、まだしっかり生きているということにね。」



「黒幕…?」



あの宗教法人は完全に潰したと思っていたが、
その裏に誰がいるというのだろう。



「それを教えるには、条件がある。
 君たち3人にもう一つ「ゲーム」をしてもらう。
 いわゆる「協力ゲーム」というのかな。」



ガレッドは、ワシと宝ヶ池と貴船の方を順々に見る。
ワシは、大きくため息をついた。



「ワシらが「ゲーム」に敗北したというのに、生きているということは、
 これは、ワシらにこれを依頼するための茶番だったということか?」



ワシはガレッドを責め立てるが、ガレッドは考え込むようにいった。


「いやあ、偶然にも、ラベルが入れ替えられていてね。
 本当に盛るつもりだったのは、
 君たちが僕に最後に依頼したものだったんだけど…」



ガレッドは、「眠り姫」の小瓶をテーブルの上に置く。
そして、それはワシが「テイパー」とラベルを入れ替えたものだった。



しかし、ワシらの行動は、監視カメラで見られているはずだ。
抜け目のないこの男が、本当にこんな単純なミスをするだろうか。
いや、それを考えても、もう仕方がないのかもしれない。



全く、本当に、つかみどころのない男だ。
ワシは、少しだけ目を瞑る。



ワシはしばらく考え、口を開く。



「その案件、受けることにしよう。」



すると、貴船もワシの言葉に同調するように賛成し、
宝ヶ池もそれに続くのだった。



お師匠様のいう通り、まだ死ぬには早いようだ。



「奇跡の右腕」は次の舞台へと進むとしよう。




おわり





あとがきへ

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