「フラット」こと貴船歩由は、
これから自分に起こるであろうことを察し、覚悟を決めた。
「なるほど、作戦失敗ということでしょうか。」
私が切断し殴打した木屋町の頭部の瞳が、
恨めしそうに私を見つめている。
作戦は、完璧だったように思われた。
私は、木屋町の正体が「ザクロ」であることも。
彼がネイルハンマーを「エミリー」と呼んで執着していたことも。
偶然にも、事前に情報を仕入れることに成功した。
そのため、彼と成り代わり、「ザクロ」として振る舞おうと考えた。
私の作戦は順調に進んでいるように思われた。
しかし、彼は私が思うより、冷静で強靭な男だった。
だからこそ、計画は狂い始めてしまったのだろう。
殺し屋には、油断は禁物。
そう分かっていたはずなのに、私が一番油断していたのだ。
腕輪から、何かの液体が流れ込んでくる。
少しずつ、意識が遠くなってくる。
ゆっくりと、しかし、確実に死が近づいているのを感じる。
そういえば、私は、なぜ殺しを続けていたのだろうか。
私は娘の雪花を自分で殺してから、ずっと復讐だけを糧にしていた。
私は、雪花を思い出すために、平らな断面を作り続けてきた。
しかし、それは、雪花を殺してしまった後悔を、
ただ誰かにぶつけたかっただけなのかもしれない。
全てを他人のせいにして、自分の間違いを認めたくなかったのだ。
ガチッ、と宝ヶ池と竹下の拘束が解ける音がした。
私の目の前はいつの間にか、真っ暗になっている。
「お父さん…」
ずっと忘れていたはずの、雪花の声が耳元に届いた気がした。
「ごめんな」
私はそう口を動かすと、雪花は私に笑ってくれた気がした。
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