シナリオテーマ「真実を求めて」





私は、もうこの村にはいないベルのことを思い出す。
彼女は、ハレル村で司書をしていた女性だ。



元々はただの同僚だったが、
当時の新刊の話題で盛り上がり、頻繁に会話をするようになった。
私たちが仲良くなるには、そう時間はかからなかった。



そんな彼女は、運命の相手と出会った。
そう、この村の科学者であるチャルドさんだ。
ベルがこの村の案内役を任されていたとき、彼との距離が縮まったようだ。



明るく子供っぽいところのあるベルと、
寡黙だが優しいところのあるチャルドさんは意気投合し、結婚に至った。
本当にお似合いで、幸せそうに暮らしていた。



だから、私がその幸せを壊すことになるとも思わなかった。



全ての事の始まりは、私の些細な疑問だ。
「おにさがし 」についての興味だった。
あのとき、私たちは裏山で取るに足らないことを話していた。



そんな中、私はこの村の歴史について調べていた際、
腑に落ちず、考え続けていたわだかまりを、ベルにぶつけた。



「ねえ、ベル。
「おにさがし」って、不思議な制度じゃない?」



私が突然そう言うと、ベルは首を傾げた。



「おにさがし」とは、ある殺人事件を契機に作られた決まりごとだ。
事件当時私は幼かったから、これは両親から聞いた話だ。



ある日、現村長ロージュさんの奥さんであるイメルダさんが、
飲み物に含まれていた毒物により命を落とした。
その際に犯人として疑われたのは前村長だった。
しかし、当時はこの村には犯人を裁く制度がなかった。




そこで、ロージュさんはイメルダさんの遺書に書かれていた、
「おにさがし」という独自の裁判制度をこの村に組み込んだのだった。
前村長は罪を否定していたが、村人たちの疑念の視線に耐えられず、
処刑される前に自ら命を絶った。



それから、この村では「おにさがし」は行われてはいない。



「イメルダさんは、チャルドと同じリーヴァ出身だったんだよね。
 向こうの裁判制度を、そのまま持ってきたんじゃない?」



ベルは、顎に手を当てて考えるそぶりを見せた。



「ううん、そうでもないんだ。
  リーヴァではもっと発達した制度が普及してるし、
 それに、「おにさがし」なんて少し変な名前じゃない?」



私が否定すると、ベルも共感するような表情を見せた。
それほど面白くない話題かと思ったが、ベルは興味を示してくれているようだ。



「言われてみればそんな気もするけど….
 私は、バーニーのただ深読みだと思うな。」




深読みと言われれば、確かにそうかもしれない。
制度の名前なんて人の思いつきなんだから。



「ベルの言う通り、そうかもしれないね。
 ただ、せっかくだから、もう少し調べてみる。」



「バーニー、あんまり深入りしないようにね。」



私は、その時「大丈夫」って答えたんだ。
やめておけばよかったのに。



私は、その後、司書の立場を利用して、
この村の歴史についての数々の文献を読み漁った。
しかし、「おにさがし」についての書籍は見当たらない。



村長の屋敷には、私が見たこともない書物が眠る書庫がある。
そこで、私は書庫に入らせてもらえないか頼もうとした。
相談したのは、村長の息子であるレイドさんだ。



ロージュさんはイメルダさんの死をきっかけに
ほとんど、私たちの前に顔を見せなくなってしまった。



そのため、ハレル村の政治は、
側近であるエリザさんとレイドさんによって行われていた。



私がレイドさんに書庫に入らせてくれるよう頼むと、
彼は怪訝そうな顔つきをした。



「確かに、書庫には歴史書がある。
 しかし、「おにさがし」の決まりでは、
 村長の親族以外への公開は禁じられている。」




レイドさんは、淡々と事実を伝えた。




私の希望は、早々に絶たれてしまった。
次の日、私がいつも通り書物を整理してると、ベルが話しかけてきた。
私は、レイドさんとの会話をベルに伝える。



何も分からなかったけど、別に何か変わるわけでもない。
普段通りの生活は、きっと続けられるはずだ。
それでも、どこか心に大きな重りがついたようだった。



「実はね…あれから私も調べてみたんだ。」



ベルは、少し言い淀んで続ける。



「何か「おにさがし」には、
 大事なことが隠されている気がするんだ。
 だから私、ハレル村の外の人に頼もうかと思ってる。」



ベルは、真剣な眼差しでそう言った。
私は周りの様子を確認してから、声を潜めていう。



「「おにさがし」の決まりでは、
 外部の者との接触は追放処置だよ?
 あなたにはチャルドさんもいるでしょ、やめときなよ。」



私はそう言ったが、ベルは考えを変えることはなかった。



「いいって、私に任せて。」



こうなったら、ベルは自分の意思を貫き通す。
彼女は、私以上に頑固な性格だ。
私は、迷いながらも、彼女を止めることはできなかった。



忘れもしない十年前のある日。
ベルが捕まったという知らせが届いた。



私は走って広場へと向かったけれど、「おにさがし」は既に終わっていた。
ベルは、外部の者との接触の罪で追放処分となった。
彼女は、私の名前は一切あげずに、ただただ罪を一人で背負ったのだ。



「おにさがし」が終わると、ベルはチャルドさんと話をしていた。



「ベル、別れよう。街に出たら、別の男と結婚するんだ。
 それが、きっと君の幸せになるはずだ。」



チャルドさんは、ベルにそう話しかけた。
冷淡に別れを告げる口調ではなく、心から思いやった言葉に聞こえた。

「それも、いいかもしれないね。
 あなたよりも男前がいたら、その人と結婚するよ。」



ベルは、少し間を置いて言う。



「チャルド、あなたといれて退屈しなかったよ。
 今まで、本当にありがとう。」



いつものような笑顔だが、どこか寂しげに感じた。
チャルドさんは、「こちらこそ、ありがとう。」と返した。



全ては私が原因だ。
私がこの幸せを奪ってしまったんだ。
罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。



「ベル、私のせいで….」



私は、ベルにゆっくりと駆け寄る。



「バーニー、あなたのせいなんかじゃない。
 私も、実は前から少し気になっていたんだ。
 だから、自分を責めないでよ。」



ベルは、いつもと同じような笑顔を見せる。



「チャルドさんと幸せに暮らしてたのに、
 私が、全部奪っちゃった….」



私は、目から涙がこぼれそうになるのを必死にこらえる。
しかし、どれだけこらえようとしても徒労に終わった。


「あの人は、きっと大丈夫。
 それに、私は、いつかこの村に帰ってくるよ。
 それまでに、別の奥さんを見つけちゃってたら、少し寂しいけどね。」



ベルは私に向かって、少し寂しそうに笑った。



「もう時間だ。付いて来てもらおう」



レイドさんが私たちの間に割って入る。
その時、ベルは私にしか聞こえないように耳元で囁く。




「あとは、バーニーに任せたよ。」



ベルは、そう言い残して、門の方へと去っていった。
私は、何か返そうと思ったが、何もかける言葉は見つからなかった。



私は、それからもこの村の歴史を調べ続けた。
ベルの最後の言葉が胸に響いたのだ。
しかし、何も進展はなかった。

そこから半年ほどの時間が経った時、
この村の独立の象徴ともなった「自由の宝玉」が盗まれた。



この事件で、再び新たな「おにさがし」が始まった。
私は、その流れを実際に見ていた。



あの日は、久しぶりの満月の晩だった。
レイドさんが進行役となり、
祀られていた祠に入ることのできた村人達が集められた。



日没まで続く長い議論の末、
この事件の犯人として選ばれたのは、ジャックさんとジェニスさんの二人。
この村では仲の良い夫婦で、ディーダちゃんという一人娘がいた。



それこそ、決して事件を起こすような人達とは思えなかった。
そういえば、事件が起こった当日には、「花火」を打ち上げていた。



「おにさがし」では、ジャックさんとジェニスさんが犯人とされた。
そして、村長の側近であるエリザは、二人の処刑を執り行った。
あまり話したことはないが、冷徹で正義感の強い女性ということだった。



まだ二十歳にも達していないのに、自ら進んでこの役を引き受けたという。
この事件を境により一層、疑心暗鬼な雰囲気がハレル村を包んだ。



私はそれからも「おにさがし」やこの村の成り立ちについて、
少ない情報をかき集めて、時間を過ごした。
しかし、集まる情報には限りがあった。
そして、いつも壁にぶつかる度に、急に鬱屈とした感情に襲われるのだ。



こんなことなら、最初から疑問なんて持たなければよかったんだ。
そうすれば、ベルはこの村にいられたのかもしれない。
いや、追放されるにしても、私の方が良かったのかもしれない。



私は、ベルとチャルドさんの結婚式を思い出した。
二人は照れながらも幸せそうに笑っていた。
私は、そんな二人の仲を引き裂いてしまったんだ。



村人達を守るための「おにさがし」は、実質的に村人達を縛っている。
このハレル村を包む闇を、真実を、私は人生を懸けてでも明かさねばならない。
それが、私の大切な友人、ベルの願いでもあるのだから。



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