シナリオテーマ「この村に救いを。」


俺が天を見上げると、
暗い夜空は、丸く眩い月に照らされていた。
最後に満月を見たのは、いつのことだっただろうか。





広場に行くと、ジャックは何かの用意をしていた。
彼が手に持っていたのは、普段目にすることのない奇妙な物体だ。
球状の本体に導火線のようなものが括りつけられている。





それらを眺めていると、急に小さな何かが俺の足へと突撃してきた。
俺が目をやると、その正体は愛らしい子犬であった。




確か、名前はホープだっただろうか。
ジャックとジェニスが飼っている愛犬だ。
まだ小さな子犬ではあるが、人懐っこい性格をしている。





俺はホープに構ってやりたい気持ちもあったが、
まずは、この謎の物体についてたずねることにした。




「なあ、ジャック。何を作っているんだ?
 この村を吹き飛ばす、爆弾でも作ったんじゃないんだろうな?」




俺が冗談まじりにいうと、ジャックは笑った。
彼とは古い付き合いで、親友とも呼べる仲である。




「ある意味正解かもな、アッシュ。
 俺は、この村の淀んだ雰囲気を吹き飛ばそうと思ってるんだ。」





「淀んだ雰囲気?」





俺は、ジャックの言葉を聞き返す。






すると、彼は俺の言葉には答えず、
謎の物体を筒状の発射台の中へと入れ、導火線に火をつけた。




「おい!」





俺は、その物体から距離をとる。
ホープも、少し後ずさりしつつ、興味深そうに火のついた先端を見つめる。
火のついた導火線は、徐々に短くなっていく。
そして、球の本体にたどり着くと、大きな音を立てて空へと上昇する。




そして、それは曇った空で爆発し、再びさらに大きな音を奏でる。
その瞬間、満月の光がかすむほど空は明るくなったのだった。





俺は、その光景に唖然として固まる。





「驚いたか、アッシュ。これは花火だ。」





ジャックは、俺の表情を見て、悪戯げに笑いながら言った。





「なんで、こんなものを?」





俺が尋ねると、ジャックは2つ目の導火線に火をつける。





「この村の人間たちは、互いを疑いすぎているようだ。
 ある人間が考えていることは、その人間にしかわからない。」




そう言うと、ジャックは大きく息をつき、言葉を続ける。





「だから、同じものを同じ村から見ることで、
 この村の誰もが、ほんの一瞬だけでも、
 同じ感情を共有できればいいと思ってるんだ。」





また、大きな音がなる。
その音につられて、村人たちが広場に集まってくる。
彼らは最初は驚いていたものの、次第に表情が和らいでいくように見えた。



その様子をみて、ジャックは続ける。





「この花火が、何かの救いになればいいんだがな。」




そういいながら、ジャックは次々に導火線に火をつける。
広場に集まる村人の数は増えている。



皆が一点を見つめて、朗らかな表情をしている光景を見ると、
この村は疑心暗鬼になっているだけで、
実際は互いに信じられるのではないかという幻想さえ浮かぶほどであった。





「救いか….」





俺は、空に上がった花火を見ながら、そう呟く。
この村に湧き上がった負の感情を、果たして変えることができるのだろうか。
いや、馬鹿げている。こんなものが救いになるはずもない。





そんなことを考えていると、
ジャックの妻である、ジェニスが息を切らせてやってきた。
村長への屋敷へとつながる階段を、走って降りてきたようだ。





彼らの間には、ディーダ という1人娘がいる。
俺も彼女とは面識があり、よく懐いてくれている。





「ジャック!もう、何してるんですか?
 何事だって思って、家から出てきちゃったんですから。」





ジャックは慌てるジェニスに笑いかけると、
そのまま空に上がった花火に目を向ける。




「ディーダ にも、見せてあげたかったな。」





ジャックがつぶやくようにいうと、
ジェニスはジャックに仕方のないような顔を向ける。





「あの子は、一旦眠ったら起きないでしょう。
 せっかく眠りについたんだから、ゆっくり寝かせてあげましょう。」





ジェニスの言葉を聞き、ジャックは頷く。





「それもそうだな。
 火薬と少しの材料があればいくらでも作れる。
 また、ディーダ に見せる機会はいつでもあるだろう。」





ジャックはそう言って、再度、空を見上げた。





そのときだった。
誰かが、広場の方へと息を切らして走ってきたのだ。





「おい!みんな集まってくれ!
「自由の宝玉」がなくなっている!」





村人たちが、声の主に目を向けると、
そこにいたのは村長ロージュの息子であるレイドだった。





「自由の宝玉」は、この村の平和の象徴である。
「自由の宝玉」の窃盗は、死刑に当たる重罪ともされている。
レイドによれば、それが無くなっているというのだ。





花火の音もなくなり、静寂が村に訪れる。
先ほどは空を見上げていた村人達は、再び陰鬱な雰囲気に包まれた。




レイドはしばらく周りを見渡すと、ジャックとジェニスの方を向いた。





「ジャック、ジェニス、ちょっと屋敷まで来てくれ。
 最後に祠を訪れたのは、お前たちだったはずだ。」





ジャックとジェニスは互いに目配せをし、屋敷へと向かうことを決断した。
レイドは、ジャックとジェニスがついてくるのを確認し、
広場でまだざわついてる村人達の方に体を向ける。




「村長のロージュは、 「おにさがし」を行うことを宣言した。
 お前たちには、今から屋敷の会議場に集まってもらう。」



村人達の表情は、より一層暗くなる。



「おにさがし」とは、村人同士で議論を行い、犯人を探し出す決まりごとだ。



ここでの決定は、どのような事情であれ真実としてみなされる。
そして、1度決まった決定を変えることはできない。



不安そうにしているジェニスに対してジャックは、
「心配ないさ。容疑はすぐに晴れる。きっと犯人も見つかるはずだ。」
と自信げにいった。



そして、まだ夜も開けない頃だろうか。
「自由の宝玉」の騒動を巡る事件の犯人が明かされる。



俺は、耳を疑った。
事件の犯人として、ジャックとジェニスの名前が伝えられたのだ。



この結果を信じることはできなかった。
ジャックとジェニスのことは昔から知っている。
そんなことをするような奴らではない。



俺は、村長のロージュやレイドを、問い詰めようと試みた。



しかし、ロージュが応対することはなく、
門の前で、村長の側近であるエリザに足を止められた。
エリザの隣には、ジャックとジェニスも立っていた。
どうやら、彼らは話をしていたようだった。



「エリザ….きっと何かの誤解だ。
 こいつらは、そんなことをする人間じゃない。」




俺は、エリザに向かって、懇願するように言う。
しかし、エリザは顔色を変えることなく首を振る。




「「おにさがし」の結果は絶対だ。覆ることはない。」



エリザのその目は冷徹そのものだった。
感情の揺らぎは全くみられない。



「なら、俺は、力づくでもお前を止めてやる。
 こいつらは、絶対に殺させない。」



俺はエリザの方を向き、決意をこめて拳を握りしめた。
しかし、俺の後頭部に鈍い痛みが走る。
視界がぼやけていく中で、俺は後ろを振り向く。



「どうして…ジャック…」



俺の頭を殴ったのは、ジャックだった。
朦朧とする頭に、彼の言葉が響く。



「仕方がないことだ、アッシュ。お前は生きてくれ。
 なあ、ディーダ のことを、よろしく頼むよ。
 あと、ホープのやつも、面倒を見てやってくれ。」




その声は、どこか諦めのようなものをはらんでいた。
普段のジャックからは、決して聞かないような声だった。
そして、途絶えそうになる意識の中で、ジャックは続けていう。




「俺は….必要な時….花火を……」



その声は細かい文節でしか聞き取ることはできなかった。



俺は、何か言い返そうとしたが、その言葉はジャックには届かず、
意識はそこで途絶えたのだった。



「バウ、バウッ」



ホープの鳴き声がする。
ホープは、俺の顔を心配そうに舐めていた。
目覚めると、そこは村の広場の木陰だった。
屋敷のある高台から、誰かに運ばれたのだろうか?
気づけば、太陽が村の真上に昇っていた。



「気がついたか?アッシュ。」



俺に話しかけてきたのはレイドだった。



「レイドか….?
  あいつらは…ジャックとジェニスはどうなった?」



俺がそう尋ねると、レイドは首を大きく横に振った。



「アッシュ、残念だが….
 彼らは、昨晩エリザの手で処刑された。」




俺は、体から力が抜けるような気がした。
俺の大切な親友は、もういない。
しばらく、その言葉すら信じることはできなかった。




「そうだ….ディーダ ….」



俺は、2人の娘であるディーダ の様子が気になり、
あの子の家へと走って向かう。
家に着き扉を叩くが、どうやら何も反応がない。




俺は心配になり、強く扉を開ける。



「お父さん!お母さん!」



扉を開けて目に入ったのは、まだ寝巻きの姿のディーダ だった。
まだ眠そうにはしているものの、目の周りは赤くなっている。
一晩中、泣き通したに違いない。




「どうしたの、そんなに急いで。」


ディーダは、俺を気遣うように言う。
走って向かったせいか、俺は息切れをしていたようだ。
俺を心配するディーダ のその優しい声に、思わず顔の表情がこわばる。



ディーダ は、あどけない表情で俺に尋ねる。




「ねえ、お父さんとお母さんのこと、知らない?」




ディーダ の質問は、俺の心を締め付ける。
俺は、残酷な事実を、今から彼女に伝えなければならないのだ。
冷静に伝えようと試みるが、唇が震えてうまく話せない。





「ディーダ….すまない….
 俺が….俺が止められていれば….」




俺は、しどろもどろにいう。
そこから、俺はジャックとジェニスに起きたことを、
1つ1つゆっくりとディーダ に伝える。



ジャックとジェニスが「おにさがし 」の犯人として選ばれたこと。
話し合いに行こうとしたが、その決定は覆らなかったこと。
「それから….」と続けようとするが、俺は言葉を詰まらせる。 



すると、ディーダ は、
「エリザに会いにいってくる….」と言って、その場を去った。



「待て、ディーダ !お前の父親と母親はエリザに….」



俺はディーダ を止めようとするが、彼女は振り返らなかった。
彼女が帰ってきた時、ディーダ の目の輝きは失われていた。
二人の処刑を知ったのだと、俺はすぐに分かった。



ディーダ は、あれから、元のような笑顔を見せることはなくなった。
俺は、エリザを止めることができなかったことを、今でも悔やんでいる。
彼女は幼い頃は俺が世話をやいていたが、今はパン屋で生計を立てている。



ホープはディーダと相談した結果、俺が預かることになった。
ホープは頭が良く、俺の言いつけは必ず守る。
妻も子供もいない俺にとっては、ホープの存在は大きかった。



また、ディーダもホープの成長を見るために、
何度も俺の家を訪れるようになった。
10年も経つと、すっかりホープの体は大きくなった。





俺は、今でもディーダとホープを見るたびに、あの時の光景を思い出す。



あの時、あと一歩が踏み出されば、
ジャックとジェニスが死ぬことのない未来もあったのだろうか?
俺は、まだあの時の後悔の中に囚われている。



10年前のあの日から、
この村に花火が上がることは、2度となかった。


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