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「ザクロ」指名

エピローグ②「フラットな世界へ」





私の目の前に現れたのは、死んだはずの男、ガレットだった。


「やあやあ、歩由ちゃん。
 僕の用意した「ゲーム」は楽しんでもらえたかな?」


死んだはずの男、武器商人のガレットは、扉の前で飄々と佇んでいた。
精巧に出来た死体は、作り物だったということだろう。



「私たちが無様に殺しあう姿を見たかったんですか?
 あなたは、良いパートナーだと思っていたのですが。」


私は、皮肉げにそう言う。
すると、ガレットは含み笑いをした。


「酷いじゃん…歩由ちゃん。
 もちろん、僕らは、いいパートナーだよ。
 これは、僕が君たちのために用意した、最後の舞台さ。」


ガレットは、私の方をじっと見て、そして言った。


「ねえ、歩由ちゃん。
 死に場所を探してたんでしょ?」


私は、しばらく沈黙した。
そうだ、私は最後の記憶を思い出した。


私が、最後にガレットに依頼したのは、「眠り姫」だった。
ただ、人を殺すためといっても、殺すつもりだったのは自分だ。
宗教法人の崩壊とともに、私は生きる目的を失ってしまった。


目的のない殺人をするのは、どこか気にくわない。
だからこそ、私は自ら死を選ぶことを決めたのだった。


「偶然にも、同じように目的を失った殺し屋が集まってね。
 そこで、最後に殺し屋として最高の舞台を用意したのさ。
 僕は、木屋町ちゃんが勝つと思ってたけど、予想は裏切られるものだね。」


ガレットは、大きく息をついて、思い出したようにいう。


「そういえば、君たちの出会いも運命みたいなものだろう。」


ガレットは、私たちの方を見て、木屋町について話し出す。
木屋町ちゃんは、僕の元を最近訪れてね。
君たちのことをとても探していたんだ。


それでも木屋町ちゃんが敗北したのは、運が悪かったのか。
それとも、君たちの抱えているような使命が、
木屋町ちゃんには欠けていたからかな。


木屋町ちゃんの前の姓は「宝ヶ池」。
確か、そこにいる奈津ちゃんと同じ家系だね。


「宝ヶ池家」に生まれた人間は「宝」を持って生まれる。
「宝ヶ池家」の彼が生まれ持っていたのは、「類稀なる判断力」。


その力を生かした彼は、新興宗教団体「赤の箒」では参謀として活躍し、
「九美霧村」における臓器売買により資金獲得に尽力した。


しかし、3人の殺し屋により、「赤の箒」は崩壊することとなる。


もちろん、君たちのことだよ。
奈津ちゃんが教祖を殺し、波瑠ちゃんが構成員を殺し、
最後に歩由ちゃんが残党を殺して回った。


もちろん、互いのことは何も知らない。知る機会すらなかったからさ。


そして、君たちは、僕に最後の依頼をした。
3人の殺し屋が僕に最後に頼んだのは、自殺のための「眠り姫」だった。


そんな中、僕は偶然木屋町ちゃんに出会い、この舞台を提案した。
彼は組織を崩壊させた殺し屋を、血眼で探し回っていたからね。


そして、君たちにとっても、彼は最後の標的だった。
君たち3人は、今回の「ゲーム」でも、
知らず知らずのうちに協力していたみたいだけどさ。


それは運命というか、なんというか…
まあ、何より、今回は歩由ちゃんの勝ちだよ、おめでとう。


そう言って、ガレットは手を叩いた。


木屋町は、私の標的であった。
知らず知らずのうちに、私は最後の標的を失ったのだった。

「悲しい顔をしているね、歩由ちゃん。ただ、朗報があるんだ。
木屋町の周辺を調査しているとき、ある事実に行き着いた。
あの宗教法人の黒幕が、まだしっかり生きているということにね。」


「黒幕…?」


あの宗教法人は完全に潰したと思っていたが、
その裏に誰がいるというのだろう。



「それを教えるには、条件がある。
君たち3人に、もう一つ「ゲーム」をしてもらう。
 いわゆる「協力ゲーム」というのかな。」


「3人」という数字を聞いて、私は宝ヶ池と竹下の方を見る。
2人は死んではおらず、寝息を立てていた。


私は、大きく息をつく。


「どうして彼らは生きているんですか?
 この「ゲーム」は、私たちにこれを依頼するための、
 茶番だったということですか?」



私はガレットを責め立てるが、
ガレットは考え込むようにいった。


「この案件は、生き残った人間にだけ渡すつもりだったんだけど…
 偶然にも、腕輪に入れるはずの
 毒薬のラベルが入れ替えられていたみたいでさ。」



ガレットは、「眠り姫」の小瓶を手に取る。
よく見ればラベルがずれている。
入れ替えたのは、手先の器用な竹下によるものだろうか。


つまり、宝ヶ池と竹下の腕輪から注入されたのは、
「眠り姫」ではなく、入れ替えられた「テイパー」ということになる。


ガレットは、私の方を見て悪戯げに笑う。
彼はこのフロアを、監視していたに違いない。
抜け目のないこの男が、本当にそんな単純なミスをするだろうか。


全く、本当に、つかみ所のない男だ。


私は、強く、目を瞑った。


この世界は、不気味で歪になっている。
もう少しだけ、この世界を平らにする必要があるようだ。


私は、死んだ娘の雪花を思い出す。


そっちに行くのは、もう少し先になりそうです。
そう心でつぶやくと、少しだけ心が楽になった気がした。



おわり





〜あとがきへ〜

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