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「人間の王よ、待ちくたびれたぞ。
 俺様は、聖都カタリアの悪魔。
 お前に、この大陸を支配する力をやろうじゃないか。」



ワシが聖都カタリアで出会ったのは、
全身が黒い靄(もや)のようなものに覆われた
小さな生きものであった。




その姿を例えるなら、そう。悪魔だ。



聖都カタリアは、いわゆる「幻の都市」と言われており、
様々なものが眠っていると伝えられていた。



獣人国では、この世を変えるほどの暴力。
妖精国では、魔力に関する法典。
竜人国では、秩序を守るための古書。
海人国では、安泰に暮らすことができる財宝。



皆は、聖都カタリアに、
自分達の国に足りないものを求めている。
だからこそ、噂も異なるのだろう。



しかしまあ、蓋を開けてみれば、
聖都カタリアにあったのは、「悪魔」であった。



「俺様と取引をしようじゃないか。
 この世界を支配するには、十分すぎる力だ。」



「悪魔」は、悪魔らしくワシに契約を迫る。



ワシが黙ったまま立ちすくんでいると、
「悪魔」は、こちらを覗き込むようにして、話を続ける。




「俺様には、お前の寿命が見える。
 お前の寿命は、残り10年といったところだろう。」



悪魔は、ワシを値踏みするように言った。
自らの寿命をこんな形で知るとはおもわず、ワシは唖然とする。



「悪魔」は、そのまま続けてワシに話しかける。



「お前の死後、俺様が力を与えて復活させる。
 お前は魔王として蘇り、
 この大陸を支配するほどの力を得るのさ。」



「悪魔」は狡猾な笑みを浮かべる。



「この大陸を支配する?
 ワシはそんなことに興味などない。お断りだ。」



ワシが強い口調で断ると、
「悪魔」は、不機嫌そうに舌打ちをする。



しかし、ワシの意思が固いことを察したのか、
諦めて、再び口を開く。



「なら、帰ってくれ。
 また別のやつを、待つことにするさ。
 まあ、久しぶりに誰かに会えたのは楽しかったぜ。」



「悪魔」は、ワシの顔を見て、
先ほどとは違う優しげな笑みを見せた。



「お前は、力に惑わされない賢い王だ。
 善王のまま、死んだほうがいいかもしれねえな。」



「悪魔」はそういった。



しかし、なんとも不可解だ。
「悪魔」というには、どこか想像と異なる。



「お前は、どうしてこの大陸を支配したいんだ?」



ワシがそう尋ねると、
「悪魔」は困ったように思いを吐き出す。



「俺様は、何千年も前に人間の手で造られたんだ。
 だからよ、支配したいって思うのは、
 俺様が、そういう風に造られたからなんだろうな。」



「悪魔」は、悲しそうな顔をして続ける。



目の前にいるのは「悪魔」ではなく、
寂しい、ただの人間のように見えた。



人の悪意によって作られたこの存在は、悪しかなしえない。
ワシはその姿を見て、何もかける言葉が見つからず、下を向いた。



すると、ワシの脳内に「ある未来」が浮かんだ。
それは、ワシを悪魔との契約に導くには、十分すぎる「未来」だった。



しかし、その「未来」には…



いや、それでいい。
ワシは成すべき事を成そう。



「契約について、もう一度教えてくれ。」



ワシは、「悪魔」の方を向き直って尋ねる。



「お?気が変わったのか?
 しかし、俺様を封印した時には、多くの血が流れた。
 お前みたいな甘い王に、その現実が耐えられるか?」



「悪魔」は、悪魔らしくもなく心配している。



「ワシに策があるんだ。
 お前にも、協力してもらおう。」



ワシは、強い口調でそう言った。



ワシの決意を察したのか、
「悪魔」が真に迫った顔で口を開く。



「そうだな、人間の王よ。
 まずは、お前の名前を教えてくれ。
 俺様との契約はそこから始まる。」



「悪魔」は、ワシに尋ねた。



それを聞いたワシは、
いつものように、穏やかに笑う。



「カタリアの「悪魔」よ。
 ワシはエイダ。お前を救ってやる。」



ワシがそう言うと、
「悪魔」は、不思議そうな顔をしていた。



10年後、すべてを救うための準備が始まる。



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