はじめに~アイデアを作り出すための4ステップ~


こんにちは、いとはきです。

最近色々な人と話す中で、アイデアはどこから湧いてくるのかと聞かれることがあります。私としても作家として活動していく中で「0から1」を作るにはどのようなことが必要なのか考えていましたが、今は個人の考えではあるものの1つの答えに辿り着いたような気がしています。その答えについては記事の末尾にまとめておりますので、時間が無い方は記事を読み飛ばしてもらって大丈夫です。

今回記事内で紹介するのは、アイデアを思いつくための素地の育成として、私が実際に実践している方法です。記事として紹介するにあたり、自分が今まで無意識にやっていたことを言語化し、ステップに区分けすることにしました。ここでは「分解」・「解釈」・「抽象化」・「再構築」の4ステップとして説明しています。この4ステップは従来からある考え方である分解と再構築や、具体化と抽象化を個人的に混ぜ合わせたものとなります。即効性が高い裏技のようなものではなく、アイデアが出やすくなるような地盤作りに役立つ思考法の一つとして機能するものとなります。

当記事では、まずは「分解」・「解釈」・「抽象化」・「再構築」の4ステップについてそれぞれ説明し、その後具体例を用いて説明していこうと思います。言葉で説明すると難しく感じますがやっていることは比較的シンプルですので、難しいと思ったら具体例を読み進めていただければと思います。


注意書き:

この文章は一般的なマーダーミステリーの在り方を示したものではなく、筆者であるいとはきが、現在の自分自身の考え方を整理した記事となります。この記事を元に、SNS上で議論をすることを目的としたものではございません。 読み物として楽しんだり、参考にできる要素があればその人の中で参考にしていただければと思います。またこれは2025年5月末現在の私の考えとなりますので、これまでの私の作品に反映されていないものもあるかもしれません。あくまで、今現在の私の考えを共有するものとお考え下さい。


1. 4ステップの概要


①「分解」: 心が動いたシーンを要素として切り抜いて分解する。
②「解釈」: なぜ自分の心が動いたのかを作品内の文脈を通じて具体的に解釈する。     
③「抽象化」:解釈した要素を抽象化し、方法論として抽象化する。
④「再構築」:抽象化したものを元に、新しいアイデアとして作り上げる。

少し難しい言葉になってしまっていますが、まずは何となくイメージでとらえていただければと思います。具体例は後で提示しますので、現段階で理解する必要はありません。これらの4ステップを用いるためには、まずは対象が必要となります。対象とするのは自分が人生の中で思い入れの強いコンテンツです。思い入れのないものをコンテンツを対象すると筆が進まないことがあるので、自分が好きなコンテンツからスタートすることをオススメします。逆に一般的に評価されているが、自分は気に入らない作品。あるいは、良いと思うが惜しいと思っている作品を対象にする方が筆が進むという形であればそちらでも構いません。今回はネタバレを含まないよう、架空のストーリーを元に説明していきます。




2. 分解・解釈・抽象化の例


ストーリー①:「『悪人』になりたい男」

主人公は人のいい男であるが、いつも周りにその人の好さを利用され、割に合わないことをやらされたり、不幸な目に合ったりしてきた。それでも男は笑って過ごしてきた。しかし男にとって人生最大の不幸な日が訪れる。上司に責任を押し付けられてクビになり、彼女の浮気現場を目撃し、そして全財産を詐欺で失ったのだ。男は絶望し、自ら命を絶とうとする。
しかし男はどうせ死ぬなら、「悪人」になってから死のうとする。私利私欲に走っていれば、ここまで追いつめられることもなかったはずだ。殺人や銀行強盗など様々な犯罪が頭に浮かぶが、どうしても苦しむ人間の顔が頭に浮かび、小さくため息をつくばかりだ。そんな中、土砂降りの雨が降る。傘を持っていたのが、不幸のどん底にいる自分にある唯一の幸運だ。男は傘をさし、どうすれば「悪人」になれるのかを再び考える。
そんな中、目の前にずぶぬれで泣いている男の子が目に入る。男は最初は見ないフリをしようとしたが、迷った末に振り返り、自分がさしている傘を男の子に渡す。男はずぶぬれの中、自分のお人好し加減に笑い、もう一度笑顔で歩き出す。その時、男に人生を変えるほどの出会いが……




主人公がハッピーエンドに向かい、それを応援したくなるようなハートフルなストーリーの導入を目指して執筆したつもりです。このようなストーリーがあった場合、ストーリーを要素に切り分けて、自分の心が動いた要素を抜き出してみます。まずはストーリーの中で一つの要素を抜き出してみましょう。例えば、この話を見た時に傘を手渡したシーンで心が動いたとします。その場合、以下のように要素を切り抜きましょう。


①分解

主人公が男の子に傘を渡すシーン。このシーンで、なぜか感動して涙が出てしまった。


「分解」では単純に自分の感情が動いたシーンを切り抜くだけで構いません。やってみると、かなり簡単な作業ではないでしょうか。なぜか涙が出てしまった。なぜか熱い気持ちになった。なぜか心の中で面白いと呟いていた。なぜか心拍数が上がるのを感じた。あまり枠に捕らわれず、思わず心が動いたポイントを書いてみましょう。「分解」では正確性よりも、直感で書き記す方が良いと思います。続いて、自分の感情がなぜ動いたのかを、文脈を通じて考察・分析する「解釈」の作業に移りましょう。


②解釈

主人公は人生のどん底にいて、命まで絶とうとしていた。そんな彼に残されたのは傘だけだったのに、それでさえも男の子に傘を手渡した。悪人になろうとしていた主人公だが、やはり根の優しさが勝って、自分の心に従って決断を下した。この心の在り方がとても素晴らしく、心が揺さぶられた。

この「解釈」の作業は感じたことを言語化する必要があるので、「分解」と比較して多少負担のかかる作業かと思います。慣れないうちは雑多な文章でいいので文字にすることで、自分の中にある感情を少しでも目に見える形でとらえるようにします。何となく感じたことを文字にすることで、改めて自分の心が動いた理由を落とし込むことができます。

感情の動きがでるまでには様々な要素が組み合わさっているため、この「解釈」を誤る可能性があります。例えばこのシーンでは「傘を渡すこと」自体が感動的なのではなく、「それまでの主人公の境遇から傘が唯一残されたものであるように描かれていたこと」が重要であることが分かります。主人公がそんな逆境の中でも、弱い立場にいる他者に傘を渡すという行為が主人公の内面性を記しており、それが感動するきっかけになっています。しかしこれを「傘を渡すシーンが泣ける」という風に誤って単純に「解釈」したとします。そうなれば自分で物語を作るとき、一方的に傘を押し付ける奇人が生み出されてしまう可能性があります。

時にはストーリーを見返したり、読み返したりすることで、自分の感情の動いた要因を可能な限り正確に書き記すことを目指しましょう。正解はありませんが、自分の中で筋道立てて書き、他の人に説明して分かってもらえるような形にすると良いと思います。

上記の過程の中で、「解釈」は感動した理由を説明したものですが、これだけでは応用が利きにくいものになります。例えば、男の子ではなくおばあさんにするとか、傘ではなくレインコートを貸したとかその程度の変え方をした場合、元のものに近いものになってしまう可能性があり、既視感のある要素になってしまう可能性があります。それではこの「解釈」したものを、より一般的な説明に変えていきましょう。それが「抽象化」のステップです。

③抽象化

どれだけ逆境の立場にいたとしても、自分の心や倫理観に従うような主人公の行動は魅力的に感じる。人間的な迷いがあった末に、自分にとって苦しくても他者に対して愛のある決断を下すことで、共感や憧れを示すことができる。

このように、「抽象化」は「解釈」した内容を元にして、他のものにも適用可能な方法論へと変化させる作業となります。具体的な内容の枝葉は切り落としつつ、より一般的な内容へと変化させていきます。ポイントとしては「解釈」からどのようなことを学べるのか。あるいは、「解釈」を他のものに転用できるようにするにはどのような説明に直したらいいか考えると「抽象化」の作業がしやすくなるかと思います。「抽象化」した内容は元の具体的な物から離れているため、アイデアとして活用することができます。

さいごに、この「抽象化」した文章を元にして次の段階である「再構築」をしてみましょう。「再構築」は「抽象化」した内容を元に、アイデアへと生かしていく考え方をいいます。



3. 再構築の例


ストーリー②「『復讐』の始まり」

ある主人公は戦時中のある国の兵であり、妻と娘と3人で幸せな家庭を築いていた。戦場では冷酷な兵であり腕は一流である一方、家庭では非常に優しい夫であった。しかし主人公はある時、最愛の妻と娘を敵国のスパイにより殺されてしまう。主人公は絶望し、復讐だけを考えて日々を過ごしていた。仇である敵国のスパイだけではなく、相手の家族を自分の妻や娘と同じ目にあわせてから殺そうと決意していた。ある日敵国への潜入任務があり、偶然訪れた家で、写真立てに映った仇の男の写真を目にする。そして家の奥から出てきたのは、男の娘となる女性だった。身分を隠しつつ、主人公は女性に男の居場所を問う。しかし男と男の妻は既に戦争に巻き込まれて死亡しており、彼らの娘である女性は一人で孤独に暮らしているという。主人公は過去の怨嗟からナイフを後ろ手に握り、殺そうとも考えるが、妻と娘の顔がよぎりどうしてもできなかった。その後主人公は迷った末に、女性の殺害をやめにする。主人公はその場を去ろうとするが、女性は主人公に父とはどのような関係だったのかと尋ねる。主人公は迷った末に、「ただの知り合いの一人だ」と応えて背を向ける。彼は妻と娘の墓参りに行くなかで、本当に復讐すべき相手はこのような異常性を生じさせた「戦争そのもの」だったと気づく。男は再び戦場の前線に向かい、この戦争を終結させようと動き出す……

こちらのストーリーは、戦争に向かう男の背景のようなものとして考えました。大きく雰囲気は変わりましたが、1つ目のストーリーの要素の抽象化を活かして作った物となります。もう一度引用すると以下のようなものとなります。


どれだけ逆境の立場にいたとしても、自分の心や倫理観に従うような主人公の行動は魅力的に感じる。人間的な迷いがあった末に、自分にとって苦しくても他者に対して愛のある決断を下すことで、共感や憧れを示すことができる。



仇の女性を前にして、逆境にいる主人公に表れたのは復讐ではなく本来の優しさとなるという形で「抽象化」した要素を使用しています。「解釈」ではなく「抽象化」のレベルで元の文章を使用することで、雰囲気は変化する一方で、元の文章で感じた心が動く点を反映させることができます。


ちなみに、この再構成したストーリーでも、「分解」・「解釈」・「抽象化」ができるので例示してみましょう。今回は元の「解釈」にあった要素ではなく、「戦争」に対して復讐を抱くシーンで熱い気持ちが高まったと考えてみましょう。


ストーリー②の4ステップ


①分解

戦争というものに対して復讐を抱くというシーンで、何か熱い気持ちを感じた。

②解釈

元々主人公は仇となった人物に妻と娘を殺されたことで、その人物を復讐の対象として考えていた。しかし主人公は自分と同じような境遇となった女性を見ることで、このような原因を引き起こしているのは「戦争」にあると気づいた。「戦争」というものが引き起こす異常性に改めて気づかされた主人公を見た時、「私自身」も現実世界で起こる事象と重なることに気づいた。主人公に対して共感し、彼のことを応援したいと思うようになった。

③抽象化

主人公の強い感情の向かう先が、他の人物との交流によって変わることで、主人公の変化や成長を強調し、大きな変化をもたらすことができる。また作中の主人公が直面している状況を作外の現実でも起こっていることと紐づけることによって、読み手や視聴者に対して共感を引き起こすことができる。


④再構築例
ストーリー③「本当の『正義』」
「正義」を信じ続ける警備隊の女性はある強盗団を追っていたが、ある日彼らにさらわれてしまう。しかし実際にその強盗団で暮らしていくうちに、彼らもまた仲間を守るために「正義」に基づいて行動していることが分かった。女性は強盗団から逃げ出すことに成功するが、今までと同じように自らの「正義」を信じることができなくなってしまった。ある日、強盗団のメンバーが捕まるが、女性は迷った末にそのメンバーを解放してしまい……(以下略)

このようにストーリー内の要素は切り取れる箇所が多数あり、それを元に「分解」・「解釈」・「抽象化」を行うことで自分の糧にすることができます。今回は架空のストーリーを抽象化して、架空のストーリーに応用しました。実際に「分解」・「解釈」・「抽象化」する元にするのは、自分の心が動いた、ありとあらゆるコンテンツとなります。自分が好きなコンテンツから学び、自分の一部の糧にする作業は、個人的には有意義な時間だと思われます。



おわりに~「0から1」を作り出すには?

文章のはじめに、「0から1」を作り上げるためにはどうしたらよいかという問いを出しました。この問いに対する答えですが、厳密な意味で「0から1」のストーリーを作り出すことができる人間はごくごく一部の天才に限られ、それを為すことができる一般論はないと思います。突き放すような答えで申し訳ないですが、少なくとも私自身はそう思います。そして悲しいことに、私自身はその天才の一人ではありません。

私自身も今までに見た創作物には多大な影響を受けており、自分が作り上げるシナリオにもそれが反映されていると考えられます。私は「0から1」を作っている感覚はなく、「0.001」にも満たない小さい粒をかき集めて1にし、それを100まで膨らませているようなイメージです。もちろんすべての粒を意識的にかき集めることができるわけではなく、何となく浮かんだものが過去に体験したコンテンツの抽象化した良い要素に由来していたことが多くあります。これを意識的にやっているか無意識的にやっているかはそれぞれ異なるかとは思いますが、多くの作り手が同じようなことをやっているのではないでしょうか。

個人的な解釈ですが厳密な意味で「0から1」を生み出していないからといって、オリジナリティが存在しないとは思っていません。どの要素を組み合わせるかどのくらいの粒を合わせるかは作り手の采配となり、その配合だからこそ生まれる心の動く作品が出来上がると考えています。天才に生まれることが無かったのは仕方がないことですが、それでも天才の後を追えるだけの資質は努力で身に着けられるのではないかと思っています。その中でこの4ステップは創作のものとになる、小さな粒を集めることができる作業となります。筋力トレーニングと同じように、繰り返すことで自分の糧になると信じています。

ただし、「抽象化」の段階ではなく「解釈」の段階で元の要素を用いて制作した場合、元の物の濃さが大きく反映されてしまう可能性があります。そうなればどこかで見たような作品となったり、盗作に相当するような作品にもなりかねません。そのため食事と同じように、良く噛み砕いて消化するように心がける必要があるかと思います。

以上、4ステップの説明をしました。私自身も定期的にやっているものであり、今のところは有意義な方法のひとつです。もし興味があれば、実際にやってみた上で、自分に合ったやり方だと感じれば創作に取り入れてもらえると嬉しいです。

それでは、またどこかで。





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