シナリオテーマ
「支配からの解放」




俺は、一体、何のために生まれてきたのだろう。
母さんが死んでから、俺は自分に問い続けてきた。



俺の父さんはロージュ、母さんはイメルダだ。
母さんは、まだ俺が幼い頃に亡くなった。
前村長による毒殺とされていたが、俺はとてもそうは思えない。



おそらく、全部、母さんの計画だろう。
前村長の死後は、父さんがハレル村長を継ぐこととなった。
母さんは、父さんに隠れて俺によく言っていた。



レイドは、この村の支配者になるべき人間なの。
私と同じ、リーヴァ人の血筋が流れているのよ。



母さんは、10歳の俺に何度も繰り返していた。
リーヴァ人はハレル島に侵攻し、そこに住むハレル人を支配した歴史がある。
もちろん、今では解放運動も起こり、支配されていた住民も解放された。
誰もが、この支配は過ちであったと考えている。
だからこそ負の歴史として、ハレル人もリーヴァ人も包み隠した。



しかし、母さんは言った。
私たちの支配は、正義であった。
リーヴァ人が、ハレル人を導かなければならないと。



だからこそ、母さんは、父さんに近づいたのだ。
自分が、このハレル村の村長になって、この村を支配するために。
父さんは母さんのことを愛していたようだったが、
母さんは、父さんのことを単なる道具のように見ていたに違いない。



だから、俺は、母さんの言うことに従った。
そうしなければ、愛してもらえないと思ったから。
そうしなければ、捨てられてしまうと思ったから。
しかし、今考えれば、俺もただの道具に過ぎなかったのかもしれない。



母さんが死んでから、父さんは部屋で塞ぎ込むようになった。
村長の立場になったというのに、ほとんど村の政治は俺に任せきりだった。
そこで、俺は、自分の手駒として扱える人間を探していた。
俺が向かったのは、隣町のルーデルに存在する”とある施設”だ。
この施設は、表向きは孤児院として運営されているが、
その実態は奴隷商のようなものだった。



引き取り手のない孤児を育てるものの、
引き渡す先は、子供を欲しがる家族ではなく命を欲しがる悪人達だ。
おそらく、引きとられた命はロクな死に方をしないだろう。



俺は、リーヴァにいた時、この施設の悪評のみを聞いていた。
しかし、安価で俺に従う人間を手に入れるには、ちょうどいいと考えた。



俺が従者を探している旨を院長に伝えると、院長は何人かの孤児を連れてきた。
特に誰でも良いと考えて、そのうちの一人を指名しようとする。
だがその時、部屋の隅の方でこちらを見つめる女がいた。
俺は、その女に何かを感じた。



「おい、あいつも孤児なのか。」



俺はその女を指差す。
すると、院長は気持ちの悪い笑みを浮かべた。



「あの子は、少し問題があるかと思われます。
 頭は良いのですが、愛想は悪く、人とあまり関わろうとはしないのです。
 従者としては、不向きかと思われますねえ。」



彼は、気持ちの悪い声でそう言った。



「とりあえず、それは俺が見て判断する。
 早く、その女を連れてこい。」



そういうと、院長は彼女の手を握りこちらへと引っ張ってきた。
彼女は、従順にこちらへと近づく。



俺は二人だけで話をすると言い、院長と他の子供達を遠ざける。
すると、こいつは、先ほど院長に握られていた手の平を軽くはたいた。
どうやら、あの悪人の心を見透かしているようだった。



「私を、この孤児院から引き取ってくれるんですか。」



彼女は、淡々といった。
とても冷たく、そして儚い声だった。



ああ、こいつは、俺に似ていると感じた。
誰も人を信用していない、無機質な機械のような目をしていた。
生きる意味が何か分からず、心を動かすような何かにも出会ったことがない。
まるで、俺の鏡写しのような女だ。



「ああ、俺はレイドだ。
 お前の名は、何という。」



「私の名は….エリザと申します….」



その声からは、感情のようなものはなかった。
俺が娼館の主人であろうと、快楽殺人を楽しむ金持ちの道楽であろうと、
きっと、同じような顔をする。



こいつは、何も将来に期待していないのだ。
だから、自分が死んでさえいいと思っているのだろう。



俺は、エリザと家族ごっこをしようとしていたわけではない。
それでも、父さんや母さんと過ごしていた時よりはずっと心地よかった。



こいつは、仕事を覚える利口なやつだ。
しかし、主人と従者の関係でいることは崩さない。
いや、俺はそれ以上の関係が分からない。
だから、与えてやることができなかったのかもしれない。



しかしあるとき、「俺の鏡」には亀裂が入る。
そのきっかけは、ディーダという娘のせいだ。
彼女は、度々屋敷へと入り込みエリザと会話をするようになった。



エリザは、初めは彼女を追い払っていた。
だが、段々と彼女に心を許し始めたのだ。
感情のない冷たい目を持つ人間に、暖かさが宿り出した。



エリザ、お前はどうして変わることができるんだ。
お前も俺を置いていくのか。
お前が心を取り戻せば、きっとお前は俺を捨てるだろう。



彼女が変わっていく姿に、俺の心は揺らいでいた。




そんな中、俺は書庫で母さんの手帳を偶然に目にする。
その内容は、母さんは自殺により命を絶ったということだった。
そして、リーヴァの血を持つ俺に意志を託すという内容が記されていた。
この手記は、隠すように本棚の奥に置かれていた。



母さんは、俺を村長にするために自ら命を落とした。
そんな、馬鹿げたことがあるだろうか。
俺は、どうしようもなく口角を上げつつ、涙を流す。


この村を支配することになど、何の意味があるのだろう。
そんなことよりも、俺はただ普通に暮らしたかった。
俺は、何のために生まれてきたのだろうか。
空虚な気持ちが胸を締め付ける。



俺が屋敷を出ると、ディーダとエリザが楽しげに笑っている姿が見えた。
この娘さえいなければ、エリザは元のままでいたはずだ。
満月の晩、俺は広場で「花火」をあげるジャックを見て、決意した。
俺らしくもない、自分勝手な行動だった。



俺は、「自由の宝玉」の盗難を偽装し、
ディーダの両親に罪を押し付けることにした。
初めから存在しない物だ。見つかるはずもない。



だが、父さんでさえ知らない事実を、村人たちが知る術はない。



これは、ディーダとエリザの仲を引き裂くためだった。
2人の処刑の全ての責任をエリザに擦りつければ、
親を失ったディーダの憎しみの矛先はエリザに向かうだろう。
本当に処刑するつもりはない、寸前のところで反故にするつもりだった。

カテゴリー: onisagashi

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