シナリオテーマ「僕の使命。」
僕が住んでいるのは、ルーデルという港街。
周りは山と海に囲まれていて、たくさんの船が人や物を連れてくる。
ルーデルは、様々な人々が行き交う、交差点のような街みたい。
初めは何もない土地だったんだけど、昔の人が開拓したんだって。
他の場所では生きていけなくなった人も、ルーデルに集まっているって聞いた。
僕は、この場所お母さんと妹のゲルダと3人で暮らしている。
僕とゲルダは、双子の兄弟だ。
でも、僕の方が先に生まれたから、
お母さんもゲルダも、僕のことをお兄ちゃんって呼んでる。
初めは恥ずかしかったけど、
お兄ちゃんって言われるのも悪くないって最近は思ってるんだ。
お母さんは、この街で、郵便配達のお仕事をしてる。
お仕事もしながら、僕たちのお世話をするのって大変なことだと思うんだ。
でも、お母さんはいつも笑顔を見せてくれる。
仕事で疲れているはずなのに、辛そうなそぶりは一切見せなかった。
「ゲルダ、フォード。
あなたたちは、誰よりも人のことを思いやれる子になるんだよ。」
お母さんは、何かあるたびにこんなことを言う。
僕たちが頷くと、お母さんは暖かく笑ってくれるんだ。
お母さんは、いつも僕たちのことを一番に気にかけてくれる。
僕も、いつかお母さんみたいな人になりたい、って心から思うんだ。
お母さんが、僕たちに今までしてくれたことに対する感謝は忘れてない。
だから、いつか絶対に恩返しをしたいと思ってた。
でも、恩返しっていうのは、いつでもできるわけじゃないってことに、
僕は、最悪の形で気づくことになるなんて思いもしなかった。
これは、つい昨日のできごとだ。
「お母さん、ただいま!」
僕は、学校から帰り、扉を開けながら言った。
でも、お母さんからの返事はなかった。
お母さんの靴は玄関にあったから、家にいるはずだ。
僕が家の中を探していると、後ろからゲルダの声がした。
「お兄ちゃん!」
その声は、泣き声が混じっているみたいだった。
「お母さんが…!お母さんが…!」
ゲルダは、溢れてくる涙を手でぬぐっている。
何が起こっているかは分からない僕を、ゲルダは病院に連れていった。
僕の胸は、不安でいっぱいだったんだ。
そして、ある病院のある部屋に案内されると、
昨日までにっこり笑っていたお母さんが、とても苦しそうな顔で倒れていた。
お医者さんは、僕の顔を見ると、1つずつ今までのことを説明してくれた。
お母さんは、今重い病気にかかっていて、つい先程この病院に運ばれたこと。
その病気は、ほとんど研究が進んでいないこと。
そして、お医者さんは、悲しそうな顔で言った。
「この病気は熱や咳を中心に、全身に焼けるような痛みが走るんだ。
こんなになるまで、よく意識を保っていたものだ。
マリーさんは、ずっと我慢してたんだろう。」
マリーというのは、僕のお母さんの名前だ。
お母さんが、僕たちのために病気を隠してた。
お医者さんからこの話を聞いた時、僕はここ数日のお母さんのことを思い出す。
お母さんは、いつもと変わらない笑顔で僕たちにご飯を作って、
掃除をして、寝るまでずっとそばにいてくれた。
僕もゲルダも、お母さんが今日倒れるまで、変化にずっと気づかなかった。
お母さんは、僕たちに迷惑をかけないために、
ずっと一人で我慢をしてきたんだ。涙があふれてきた。
何が恩返しだ。
お母さんが、辛いことに気づいてあげられないなんて。
「お母さんの病気を治せる人はいないの?」
僕は、藁にもすがる思いで、お医者さんに聞いた。
「心当たりはあるが….」
お医者さんは、僕から視線をそらす。
そして、そのまま言葉を続ける。
「確か、都市リーヴァ出身の科学者の一人が、
この病気の研究をしているという噂を聞いたことがある。」
「その人は、今どこにいるの?」
僕は、お医者さんの言葉に割り込むように言った。
すると、お医者さんは少し間をおいて返した。
「ここから、山を越えたところにあるハレル村だ。
確か、その科学者の名は、チャルドという者だったはずだ。」
「僕が、その人を連れてくる。」
僕がそういうと、お医者さんは慌てて止める。
「無理だ。あそこは、外部から入ることができない。
それに、もうすぐ夜が来るだろう。
山で迷ってしまうに違いない。」
お医者さんは必死に止めようとしたが、
僕の目を見ると、何かを決したようだった。
「少しでも、危ないと思ったら帰ってくるんだ。いいね?」
「わかったよ、お医者さん。」
僕が病室から抜け出そうとすると、お医者さんは僕を呼び止めた。
「これを持っていくといい。私からの紹介状だ。」
そういって、お医者さんは僕に1通の封筒を渡した。
僕はそれをカバンに入れて、病院を飛び出した。
自分の家へと戻り、必要なものをリュックに詰める。
僕が準備をしていると、
病院から抜け出した僕を心配してきたのか、ゲルダが家へと帰ってきた。
「お兄ちゃん、どうしたの?
いきなり病院から飛び出しちゃって…。」
ゲルダは息切れをしていた。
僕はゲルダに向き直ると落ち着いて答えた。
「ハレル村に行ってくる。お母さんを助けるんだ。」
すると、ゲルダはびっくりしたように僕の方を見た。
「ダメだよ!お兄ちゃん!
見張りの人に捕まったら、殺されちゃうかも。」
ゲルダは焦っているが、僕の気持ちは変わらない。
「大丈夫だって。任せて。」
「それだったら…私もいく!」
ゲルダは、震えた声で言った。
勇気を出して言っていることが声から伝わってきた。
「ゲルダ、お前はお母さんの近くにいてあげるんだ。
お母さんの近くにいて、支えになってあげて。」
ゲルダは、しばらく考えていたが、ゆっくりと頷いた。
そして、何かを思い出したように口を開く。
「あのね….私見てたんだ。
私の知らない文字だったから、多分ハレル村の人に向けた手紙だと思うの。」
僕は、お母さんが他の人から手紙を受け取っていたのを思い出した。
お母さんは、いつかこの手紙を届けなきゃいけないっていってた。
「手紙は、どこにあるの?」
「確か…そこの引き出しの中にしまってたはず。」
ゲルダは、引き出しを指差す。
僕が引き出しを開けると、そこには何通かの手紙が入っていたんだ。
カバンの中には、お医者さんからの手紙も入っている。
でも、僕もゲルダも
ハレル村で使われているハレル文字がほとんど読めないから、
何が書かれているかはわからない。
ルーデルには、他の場所では生きられなくなった人もいる。
お母さんは、その人たちとよく話していた。
お母さんはそんな人達から、
どうしても出せない手紙を預かっているみたいだった。
お母さんは、いつかこの受け取った手紙を届けるつもりらしいけど、
僕が大きくなるまでは、僕のことが心配だから待っているみたい。
お母さんがやらなきゃならないことは、僕がやるんだ。
そう思って、僕は手紙を、全てカバンの中に入れた。
暗くなってしまえば、明かりのない山道は危険になってしまう。
だから、急いでハレル村へと行こうとした。
僕はルーデルをでて、山道を登っていく。
足取りは重いけど、辛いなんていってられない。
しばらくすると、下の方に、大きな屋敷のような場所が見えた。
あそこがハレル村か….
ほっと息をついた時、僕は斜面で足を滑らせ、ゴロゴロと坂道を転がった。
そして、気がつくと、どうやら僕は大きなお屋敷の後ろに居たんだ。
僕は、必ず、お母さんを助けなければならないんだ。
だって、まだ僕は恩返しをしていないんだから。
お母さん待ってて。僕が助けてあげるからね。
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