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「ドラゴ、お前に一つ頼みたいことがあるんだ。」



人間の王であるエイダ殿は、私にそう言った。
10年前の「リスピア公会議」の翌日の晩のことだった。



「自分にできることであれば、お受けいたしましょう。」



自分は、淡々とそれに返す。
すると、エイダ殿は言いにくそうに言葉を続ける。



「ワシは、いつか道を誤ることもあるだろう。
 その時は、ドラゴ。お前に、ワシを殺して欲しいのだ。」


はじめは、エイダ殿のいつもの冗談かとも思ったが、
その顔は、真剣そのものだった。



「馬鹿なことを言わないでください。
 自分は…エイダ殿は、最高の王だと思っています。」



それは、お世辞ではなく、自分の心からの言葉であった。
人間と5人の亜人の王が、手を取り合うことになるとは思わなかった。
それは、エイダ殿の政治手腕によるものに他ならない。



彼は「救いの王」と呼ばれており、
他の種族の王たちと和解しようと、
身を粉にして動いていることは知っていた。



3ヶ月ほど前、自分のもとに単身で乗り込んできたときは、
あまりにも無茶な行動であると肝を冷やしたものだ。



エイダ殿は、自分に言った。
全ての種族が和解できる世界を見たくはないか。
そのために、「リスピア公会議」に参加してほしいと。



自分は、竜人族だけが動いても何も変わらないと追い返そうとした。



しかし、彼は、既に他の亜人の王の招集を済ましていたのだ。



そして、最後が、自分たち竜人族であった。
自分は、不思議に思いながらも、招集に応じた。



まさか和解をするとは思わなかった。
形式上ではあるが、リスピア大陸で和平協定が結ばれたのだ。



エイダ殿は儚げな顔をして、呟くように言う。



「変わらないものなどない。
 人も亜人も、時間とともに考えは変わってしまうものだ。
 そして、ワシも今のワシでいられるとは限らない。」



確かに、この世界のものは常に流転している。
このひとときの平和は、きっといつか終わるのだろう。
そして、今は善王であるエイダ殿も、悪の道に堕ちるかもしれない。



自分は、少し考えて言った。



「それでは、エイダ殿。約束しましょう。
 あなたが悪に染まった時は、自分があなたの命を絶ちましょう。
 善王は、善王のまま、死ぬべきです。」



自分は、迷いながらもそう言った。
すると、エイダ殿は穏やかに笑った。



「お前は、いつも正しいやつだ。
 感情よりも秩序を常に大切にしている。」



それを見て、自分はここ何十年も笑っていないことに気づく。
竜人族は、多くの亜人から避けられてきているからだ。
だからこそ、誇りを持つために、他者に感情を晒そうとはしない。



竜人族は、他の種族を根絶やしにできるほどの力を持つ。
それを乱用すれば、自分たちはただの化け物になるだろう。

だからこそ、竜人族は、秩序の保守を信念としている。
正しく生きることが、強大な力を制御することにつながるのだ。



「和解は、10年後に実を結ぶはずだ。
 いつの日か、お前が笑えるような世界になればいいな。
 竜人王ドラゴよ、いつかお前も救ってやる。」



エイダ殿はそう言うと、
再び優しい笑みを浮かべた。



もう少しで、前回のリスピア公会議から10年が経つ。



エイダは、「再結会」と称して各亜人の王を招集している。



いつかエイダ殿のように、
自分も心から穏やかに笑うことができるのだろうか。



自分は、10年の時を経て、エイダ殿の住むローデン城へと向かった。



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