
こんにちは、いとはきです。
今回は、マーダーミステリーにおけるミッションについて考えていきます。ミッションには通常各プレイヤーキャラが達成すべき目標が示されており、それぞれのプレイヤーはゲームを通じてこのミッションの達成を目指すことになります。
それでは、なぜこのミッションを達成する必要があるのでしょうか。別の言い方をすれば、なぜ作者はミッションを設定するのでしょうか。今回の記事はミッションが設定される理由に改めて着目し、それが破られたときにどのような作用が発生するのかを考えていきます。
注意書き:
この文章は一般的なマーダーミステリーの在り方を示したものではなく、筆者であるいとはきが、現在の自分自身の考え方を整理した記事となります。この記事を元に、SNS上で議論をすることを目的としたものではございません。 読み物として楽しんだり、参考にできる要素があればその人の中で参考にしていただければと思います。またこれは2025年7月末現在の私の考えとなりますので、これまでの私の作品に反映されていないものもあるかもしれません。あくまで、今現在の私の考えを共有するものとお考え下さい。
1. ミッションの役割

ミッションの表面上の役割として思い浮かぶのは、「勝ち負けを決めること」です。最終的にゲームが終了した際に得点を集計することで、ゲームにおける達成度を他者や過去の自己と比較することができます。しかし、得点があるにもかかわらず集計をしないシナリオがあったり、そもそも得点自体が存在しないシナリオもあります。
ここからは仮説ではあるのですが、そもそも「勝ち負けを決める」のは、プレイヤーにミッションを守らせるための動機づけとして分かりやすい手段として設けられたものだったのではないかと考えています。プレイヤーは勝利するためにはミッションを達成する必要があるため、自分に割り当てられたミッションを達成するために戦略を立て、それを実行していきます。つまり「勝ち負けをつける」ためにミッションがあるのではなく、プレイヤーにミッションを守らせるために「勝ち負けをつける」ことにしたのではないでしょうか。
それでは、そこまでして守らせたい、ミッション自体の根本的な役割はどのようなものなのでしょうか。ここで着目したいミッションの役割はいくつかありますが、今回の記事ではミッションの持つ「誘導性」にのみ着目したいと思います。この「誘導性」については次章以降で具体的に記述していきますので、まずはイメージを掴んでもらうために、別の物に例えていきたいと思います。
ミッションの機能である「誘導性」は、プレイヤーを導く「灯台の光」のようなものだと考えています。プレイヤーはハンドアウトを読んでキャラクターを理解し、議論という真っ暗な夜の海に小さな船に乗せられて放り出されます。このとき何も指針になるものが無ければ、大岩にぶつかり、船は波に飲まれる形で沈没してしまう危険があります。そのような暗闇の中でミッションは事故を防ぎ、海路を照らして正しい方向へと導く「灯台の光」として機能します。今回はミッションをプレイヤーを導く「灯台の光」として捉え、再考していきたいと思います。
2. 「物語性」を照らす
①キャラクターの理解と行動の誘導

ミッションにはキャラクターの感情や性質を理解させ、物語を議論上で行動として導く役割があると考えられます。
例えば、あるプレイヤーが犯人以外のキャラクターを担当し、犯人を探し出すミッションを抱えているとしましょう。また同時にそのキャラクターは被害者の最後の言葉を知るために、被害者の遺品である手紙を探し出したいと考えているとします。それをミッションとして表した時、以下のように提示されたとします。
ミッションパターン
A:被害者が遺した手紙を獲得すること。 +8
B:この事件の犯人に投票すること。 +2
このようなミッションの点数の割り当てや優先度は、プレイヤーがキャラクターを理解する指針となります。この場合には被害者の最後の言葉を何としてでも知りたいという強い意思を感じることができるでしょう。遺産なのか自分の出生の謎なのか、どのような内容かは分かりませんが、きっとそのキャラクターにとっては重要であることが伝わってきます。また犯人を探すミッションが割合として低く設定されていることから、被害者にはその段階では強い愛情を抱いていなかったり、殺されても仕方がないと考える一定の理由があるのかもしれないと考えるかもしれません。
またこのミッションを達成しようとしてした行動は、ゲーム中にロールプレイとして出力されることになります。たとえば、この人物はもちろん犯人を探し出そうとはするでしょうが、それ以上に何としてでも手紙を探し出すための行動を行うはずです。密談で相手から手紙に関する情報を聞き出そうとするでしょうし、もしかしたら犯人を探すことを諦めてでも手紙の獲得に尽力するようになるでしょう。このように物語で感じたキャラクターの意思が、ミッションを通じてゲームの中でロールプレイとして反映できるようになります。
理解のために、AとBを達成することで得られる点数が逆のパターンを考えましょう。
ミッションパターン2
A:この事件の犯人に投票すること。 +8
B:被害者が遺した手紙を獲得すること。 +2
この「パターン2」では、プレイヤーからキャラクターに対しての理解は先程の「パターン1」とは異なるものとなります。このキャラクターは手紙について興味を持っているものの、それよりも犯人を何としてでも導き出したいという執念や復讐心の方が強いのだと感じることができるはずです。
プレイヤーも犯人の特定を積極的に行い、手紙については余裕があったら回収する程度の心持ちになり、それがロールプレイに反映されゲームの議論へと波及していきます。
②光の導きのない「物語」
マーダーミステリーにおいてミッションがなければ、どのような状況になるでしょうか。まず考えられることとして、プレイヤーはキャラクターを誤解する可能性があります。例えば上記のミッションパターン1と2では大きくキャラクターの心情は異なりますが、それを把握することができないまま議論を行うことになります。プレイヤーはキャラクターに寄り添うことに失敗し、キャラクターの本来の行動から大きく離れた行動をしてしまう可能性があります。
しかし、問題は波及していきます。誤解したまま議論を行えば、他のキャラクターとの関係性も、誤解に基づくロールプレイを用いて構成されることになります。本来であれば争わなくてもいい関係なのに争いを始めたり、本来であれば犬猿の仲になるはずの関係なのに親友のような関係が構築されたりすることもあり得ます。こうなれば、作者が本来想定していたはずの物語とは全く異なる展開に陥る可能性があります。果てには、用意されたエンディングと卓中の展開も大きく異なり、空虚な気持ちでエンディングの読み合わせが始まってしまうことも想定されます。
このようにミッションが無い場合には、プレイヤーがキャラクターを誤解することで、作者が想定した流れと大きく異なる展開に陥ると考えられます。
3「推理」を照らす。
①駆け引きを作り、推理の流れを導く。

次に、ミッションが「推理性」と「ゲーム性」を接着する作用について考えてみましょう。まずマーダーミステリーにおける推理は、基本的には情報が増えることによって進展するように設計されています。この情報はハンドアウトに散りばめられているものもあれば、各証拠品に対して散りばめられているものもあります。ここでミッションは推理上の駆け引きをもたらし、ゲーム全体の推理の流れを導く要素があると考えられます。
ここではいくつかの例に絞って考えてみましょう。まずは基本的な設計例です。あるキャラクターは被害者を殺した犯人ではないものの、犯行時刻内に盗みを働きトパーズのブローチを手にしています。この盗みを明らかにすれば自身の無実を証明できますが、あなたはブローチの窃盗犯として捕まることになります。
ミッションパターン3
A:この事件の犯人として最多得票者にならないこと。 +7
B:あなたがトパーズのブローチを盗んだことが探偵に明らかになること。 ー3
上記のミッションはよく見る構成の一つですが、目的としては駆け引きの誘導と難易度の調整として行われます。自分自身が犯人でないことを証明することができる利得と、ブローチを盗んだことを明らかにすることの損失が数値で表れています。この点数をどう最大化しようかと考えることで駆け引きやプレイヤーの個性が生まれることになります。場合によっては最後までブローチを盗んだことを隠し通そうとするでしょうし、もしかしたらすぐにブローチを盗んだことを明らかにする人もいるかもしれません。このように、そのキャラクターを担当するプレイヤーによって選択のバラつきを生じさせることができると考えられます。
また全体の推理バランスの調整のために行われることもしばしばあります。例えば、ブローチの窃盗をあまりにも早く自白し、このキャラクターが犯人でないことが証明されたとします。そうなれば殺人犯の候補となる人物は減り、犯人役の方は大きく追いつめられることになります。そのため窃盗の自白に対して損失を発生させることで、議論の後半までその情報を出させないようにする作用があると考えられます。
②光の導きのない「推理」
それではミッションが設定されていない場合、マーダーミステリーの推理はどのようになるでしょうか。マーダーミステリーの特性として、議論はプレイヤーによって任されることがあげられます。これはマーダーミステリーの魅力である一方で、ゲームの崩壊を招く亀裂となる可能性があります。例えば開始数分でハンドアウト内の秘密を全員が明らかにすることで犯人が浮き彫りになったり、通常であれば明らかにするべきではない秘密を犯人でないことを証明するために明らかにしたり、果てには犯人が途中であきらめて自白をしてしまったりすることも考えられます。このような状況となれば、推理の難易度は当初設定されていたはずのバランスから大きくかけ離れたものとなり、場合によってはゲーム進行自体ができなくなってしまう可能性があります。
このように、ミッションのない場合には、代替となるような別の規則が無い限り無秩序な空間となると考えられます。
さいごに~ミッションよりも感情を優先すべきか?~

大前提となりますが、すべてのシナリオのミッションが「達成することにより、プレイヤーキャラクターとその大切な人間たちがポジティブな感情になるような設計」になっていることを仮定します。このとき、ミッションや自分の感情を優先したらどうなるでしょうか。
この場合、ミッションよりも自分の感情を優先するという行為は「夜の海で綺麗な夜空を見ようとして灯台の光を消す行為」となると思います。稀に何かが噛みあうことで綺麗な景色を見ることができる可能性もありますが、同時に岩にぶつかるリスクや波に飲まれてしまうリスクは大幅に高まります。確かに、たまたまそのミッションの無視が噛み合ってその卓自体が良くなることはあるかもしれませんが、同時にゲームを崩壊させてしまうリスクが伴います。そして何よりもマーダーミステリーは自分だけではなく、同卓する人も同じリスクを背負います。危険に飛び込むことになるのは自分だけではなくなってしまうということには注意すべきだと思われます。
これは作者であるいとはきとしての個人的な意見ですが、もしGMと同卓者がリスクを容認できる人間で固まっている場合であれば、ミッションの無視をゲーム性として取り入れても良いかもしれません。しかし私個人の意見としてはミッションを遵守していただく方が、マーダーミステリーは楽しく安全にプレイすることができるかと思います。
ただ一方でミッションを制作する作者に求められる要素があります。それは「プレイヤーがミッションを達成したが、結果として、その達成がプレイヤー自身にとって不快な体験を引き起こすこと」を排除することです。もし一度でも、ミッションを達成しようとしたことが不快な体験に繋がれば、ミッションを守りたいという動機が損なわれてしまいます。これは、何としてでも防がなければならないと考えられます。
私個人としては、ミッションはマーダーミステリーをマーダーミステリーたらしめる核となる要素の一つだと考えています。ここでは書ききれなかったミッションの性質もありますが、またどこかで機会があれば再考していきたいと思います。
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